月夜の翡翠と貴方【番外集】
「……ナタナ様」
呼ぶと、彼は優しい目をしてこちらへ視線を移す。
その目が冷たく、獰猛(どうもう)なほど光ったとき。
………彼はわたしのすべてを、残酷にも奪っていった。
確かに何も知らない人の目に、彼は冷たく映るだろう。
けれど、彼が冷たいだけではないことを、わたしは知っていた。
何度も何度も殴っては、すがるようにわたしを抱きしめてくる。
…その、確かに血の通った人の、温もり。
悔しいほどに、身体が覚えてしまった。
冷たい彼の、かけがえのないその温もりを、わたしは痛いほどこの身に刻み込んでいる。
「……ナタナ様は、冷たいけれど、優しいわ」
そう、じっと目を見つめて言うと、彼は薄く笑った。
「…私は、貴女の仇だろう?優しいなんて、面白いことを言うね」
……わたしだって、おかしいと、思う。
ナタナが眉を下げて、小さく笑ってわたしの頭を撫でる。
わたしはその優しげな目を、苦しい気持ちで見つめた。