月夜の翡翠と貴方【番外集】


「…マリア。この花を、知っているか?」


素直に首を横に振ると、「そうか」と彼は笑った。


「……では、大人になったら調べてみなさい」


……それはまるで、数ヶ月後の別れを、暗示しているかのようで。

何も知らない幼いわたしは、彼の優しい笑みを目に焼き付けるように、口を開いた。


「……綺麗、ね。ナタナ様」


誰よりもわたしを、蔑んでいた人。

誰よりもわたしを、綺麗な瞳で見つめていた人。

彼の嘘と本音を、わたしは最後まで知ることができなかったけれど。


…わたしは確かに、『彼』で生きていた。


心を一度その手で殺されて、そうしてまた、その優しさで作り直された。

……ナタナ・フレドラ。

『わたし』の、最初で最後のご主人様。






「ジェイド。花屋があるけど、寄っていく?」


数ヶ月前、セルシアとロディーの間に子供が生まれたと、ミラゼの酒場へ手紙が届いた。

ふたりが結婚してから、もうすぐ三年が経つ。

そこで、子供の姿も見に、モンチェーンへ行こうということになったのだ。


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