月夜の翡翠と貴方【番外集】
コンラートの邸に行く途中で、ルトが花屋を見つけた。
「そうだね。お祝いに」
花束を持って行こうということになり、私達はモンチェーンの街の花屋へ立ち寄った。
店先に並ぶ、たくさんの花達。
ルトが店員に話をしている間、私はそれらを眺めていた。
…みんな、綺麗。
そう思ったとき、あの記憶が蘇ってきた。
『…花は、好きかい?』
『彼』の言葉が、耳の奥に響く。
胸を締め付けられるその懐かしい思い出に、私は唇を噛んだ。
……どうして、あなたは。
余計な思いは振り払おうと思い、別の花を眺めようと、後ろを向く。
……けれど、その先にあった紫紅に、私は目を見開いた。
「……え?」
思わず、声が漏れる。
店員と話し終えたルトが、不思議そうに「どうした?」と言って、こちらへ来た。
「花束、今頼んだけど……ジェイド?」
目の前に置かれた鉢に、植えられたその小さな花。
…丸い形を、していて。
強いくらいの、紫紅の色。
忘れるはずもない、目が覚めるような、あの光景。
……彼の、言葉………
それを思い出した瞬間、私ははじかれるように「…あのっ」と声を出した。