月夜の翡翠と貴方【番外集】
「やだ、タツビ!女の子に『気持ち悪い』なんて信じられない!」
「なーにが女の子だよ!そういうのが気持ち悪いんだよっ」
私とルトを挟んで、口喧嘩を始めてしまった。
…こうやって言い合いながらも、ネオはわざわざタツビと歩いてプリジア家に戻りたいと言い出したのだから、仲はいいのだろう。
下級貴族であるプリジア家と、平凡な商人の家であるグランデ。
このふたつの家は、当主同士の仲が良く、昔から親交があったらしい。
そのため、ちょうど十歳で年が同じであるネオとタツビは、幼い頃からよく一緒に遊んでいたという。
今回、ネオが歩いて帰ることになり、プリジアの召使いはこのことをプリジア家に戻って伝えなければならなくなった。
しかし、ネオとタツビの道中に付き添う者がおらず、仕方なく近くにあった依頼所へ駆け込んだというわけだ。
私にとって、初めての依頼。
子供の相手というのはスジュナを思い出して、とても和む。
何より、できる限り血の気の少ない依頼を受けたかった私にとっては、これはありがたい依頼なのだ。
ケボウの街の入口にあたる門を抜けると、ネオは嬉しそうに「ねえ、ルトさん!」と話しかけた。
「必ず、パラベの村に立ち寄って下さいね!絶対よ!」
「わかってるわかってる。パラベにつくのは、明後日だね」
ルトが笑って、地図を眺める。
タツビはその地図を、興味しんしんな様子で見上げていた。