月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…ネオ」
「栄えていない街には、いつだって横暴な貴族がいるものね。……どうしてわたし、貴族として生まれたんだろう」
…この子は、貴族としての自分を、誇らしく思っていないのだろうか。
もう一度、ネオ、と呼ぼうとしたとき、目の前に黒の革靴が現れた。
…え?
顔を上げ、その人物を見る。
高級そうな身なりをした男が、私達の前に立っていた。
「……『碧の美女』、ですね?」
不気味なほど微笑んだ、その男が口にした色の名前に、自分のことだと悟る。
「…だれ?」
突然現れた知らない男に、ネオが怯えていた。
そっとネオの肩を引き寄せ、男を睨む。
……誰なのか、わからないけれど。
嫌な予感しか、しない。
フードをとっていたことを、今更ながら後悔した。
「……私に何か、御用が?」
ネオの小さな手が、私の服を掴む。
シルクハットをとって、男はフッと笑うと、口を開いた。
「…ルト・サナウェルに最近できたという、相棒。その容貌から、『碧の美女』と噂されている」
男が語り出した内容に、私は目を見開いた。
……噂されている、って。
本当に?
ルトのことを知っているということは、この男は同業だ。
裏の世界の、人間。
眉を寄せ、信じられないという顔をする私を、男は嘲笑うように見た。