月夜の翡翠と貴方【番外集】
「……ル…っ」
「では、失礼します」
私が言うより早く、男は身を翻して人波に紛れていった。
……なんの、目的で。
何者…だろうか。
「……ジェイド、ネオちゃん。大丈夫?怪我ない?」
不安そうな目をしたタツビの手を握り、ルトがこちらへ近づいてくる。
よほど怖かったのか、未だ私の服を掴んでいるネオの頭を、そっと撫でた。
「……うん。大丈夫だけど……ルト」
子供達に聞こえないよう、彼の耳もとに唇を近づける。
「…短剣で、刺されそうになった。あと、あの人私達のことを知ってる」
私の言葉に、ルトは眉を寄せてため息をついた。
「……そうか。なんか見覚えある顔だとは思ったけど…」
「知ってる人?」
「…多分な。でも、思い出せない。今までの仕事絡みで、俺に恨みを持ってる奴…だろうな」
…今度こそ、か。
以前、レグートに矢を仕向けられたときも、そう疑ったが…結局、彼はルトではなく私の敵だった。
けれど、今度こそ…きっと、本当に。
ルトの、敵だ。
「…ごめんな、怖かったよな」
ネオの頭を撫でながら、ルトは目を細める。
私は何も言えずに、それを見ていた。