月夜の翡翠と貴方【番外集】


「……ル…っ」

「では、失礼します」

私が言うより早く、男は身を翻して人波に紛れていった。

……なんの、目的で。

何者…だろうか。


「……ジェイド、ネオちゃん。大丈夫?怪我ない?」


不安そうな目をしたタツビの手を握り、ルトがこちらへ近づいてくる。

よほど怖かったのか、未だ私の服を掴んでいるネオの頭を、そっと撫でた。

「……うん。大丈夫だけど……ルト」

子供達に聞こえないよう、彼の耳もとに唇を近づける。

「…短剣で、刺されそうになった。あと、あの人私達のことを知ってる」

私の言葉に、ルトは眉を寄せてため息をついた。

「……そうか。なんか見覚えある顔だとは思ったけど…」

「知ってる人?」

「…多分な。でも、思い出せない。今までの仕事絡みで、俺に恨みを持ってる奴…だろうな」

…今度こそ、か。

以前、レグートに矢を仕向けられたときも、そう疑ったが…結局、彼はルトではなく私の敵だった。

けれど、今度こそ…きっと、本当に。

ルトの、敵だ。


「…ごめんな、怖かったよな」


ネオの頭を撫でながら、ルトは目を細める。

私は何も言えずに、それを見ていた。


< 398 / 455 >

この作品をシェア

pagetop