月夜の翡翠と貴方【番外集】
「いいえ。なんでもないわ」
ルトが、照れ臭そうな顔をする。
その様子に笑いながら、私は頭につけられた蝶に触れた。
……またひとつ、宝物が増えていく。
私は胸が強く締め付けられるのを感じながら、「ルト」と呼んだ。
「…ありがとう」
彼は、優しく笑い返してくれた。
*
その後、ネオが疲れたと言うので近くで休むことにした。
立ち並ぶ民家の外壁のそばで、立ち止まる。
ネオは大きく息をついて、その場に座り込んだ。
「はぁっ、疲れた!」
それに比べ、疲れた様子のないタツビはネオは見て、呆れた顔をする。
「いっつも馬車ばっかり使ってるからだ」
タツビは家の手伝いで鍛えられているのか、たくましい。
ネオは悔しそうに、頬を膨らませた。
「わかってるわよ、そんなの。わたしだって、好きで馬車ばかり使ってるんじゃないわ」
……それは確かに、そうかもしれない。
貴族は敵が多いぶん、特に子供などは一人で歩かせようとはしない。
それこそ、私達のような人間を雇うことが必要になる。