月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…でも、ルトがっ」
そう言った瞬間、彼が声を荒げた。
「早くしろ!これは仕事なんだよ、そいつらの命が最優先だ!」
……あ。
そうだ、これは依頼だ。
このふたりの子供を無事に家まで送り届けるという、依頼を受けているのだ。
……何を、迷っていたんだろう。
私は唇を噛むと、怯えるタツビに「来て!」と叫んだ。
混乱した表情のタツビは、それでも急がなければならない事態だと悟ったのか、走り出してくれた。
振り返り、暗い夜道へ駆け出す。
しかし次の瞬間、私とタツビの前に勢い良く矢が飛んで来た。
「!!」
四本の矢が、地面に深く突き刺さる。
私達の進路を絶つためのその矢に、焦りが増した。
「…な、なんだよこれっ……」
青ざめたタツビの身体が、震え始める。
…これ以上進めば、絶対に危ない。
私はネオをおぶったまま、上を見回した。
…どこから、飛んできた?
まさか最初から、囲まれていたのか。
「……っくそ」
私達の道が阻まれたのに気づいたのか、後ろからルトの声が聞こえた。