月夜の翡翠と貴方【番外集】


レンウは私に背を向けて、部屋へ戻っていった。





静かに、部屋の扉を開ける。


先程のことが頭の中を巡り、自然と私を俯かせた。

自分の足と床を見つめながら、部屋へと一歩踏み出す。

そして視界に映ったものに、私は目を見開いた。

…この、靴は。



「おかえり」


優しくて低い声に、ぱっと顔を上げる。


「…起きて、たの……?」


静かに、口元に笑みを浮かべながら。

扉の近くに背を預け、まるで待っていたかのように、私の主人は立っていた。


「…扉が開く音がして目が覚めたら、隣にいないから。どこ行ったのかと思った」


…私の嫌いな、笑顔だった。

明るくて純粋な、私の好きな笑顔ではなかった。


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