月夜の翡翠と貴方【番外集】
レンウは私に背を向けて、部屋へ戻っていった。
*
静かに、部屋の扉を開ける。
先程のことが頭の中を巡り、自然と私を俯かせた。
自分の足と床を見つめながら、部屋へと一歩踏み出す。
そして視界に映ったものに、私は目を見開いた。
…この、靴は。
「おかえり」
優しくて低い声に、ぱっと顔を上げる。
「…起きて、たの……?」
静かに、口元に笑みを浮かべながら。
扉の近くに背を預け、まるで待っていたかのように、私の主人は立っていた。
「…扉が開く音がして目が覚めたら、隣にいないから。どこ行ったのかと思った」
…私の嫌いな、笑顔だった。
明るくて純粋な、私の好きな笑顔ではなかった。