月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…ジェイド、やっぱ戻ってこい」
……もう、逃げられない。
私は立ちすくむタツビに「大丈夫だから、来て」と言った。
……どう、すれば良いのか。
敵は、やはり昨日突然声をかけてきた、あの男か。
少しずつ、ルトのもとへ歩く。
彼との距離が、あと数歩…というところで、またもや矢が飛んできた。
私と、ルトの間に。
「……っ!」
タツビの肩を引っ張り、間一髪で避ける。
今度こそ腰を抜かしたタツビは、その瞳に涙を浮かべた。
「な…なんで……」
「…大丈夫。絶対守るから」
立って、と言い、片手を差し出す。
よろめきながらも、タツビは立ち上がった。
ルトがこちらを向いて、悔しそうに目を細める。
「……ジェイド」
…矢に前後の進路を阻まれた私達は、ルトのもとへも行けない。
背中を、冷や汗が伝う。
目を合わせ、その唇が『逃げろ』と動いたのを見た瞬間、ルトの前に剣を持った正装姿の男達が、暗闇から姿を現した。
私はすぐに、まだ阻まれていない進路の方向へ踏み出す。
ルトは鞘から剣を抜き、男達の方へ向き直った。
……けれど。
「!」
やはり、私達の前に矢が飛んできた。
敵は、まだいる。
ルトの前に立ちはだかっている男達の他に、まだどこかに潜んでいる。
歯を食いしばって、ルトの方へ向き直る。
ネオをおぶっているせいで、自由に動けない。