月夜の翡翠と貴方【番外集】
…ああ、そうだった。
この男は、ずるい男なのだ。
嘘をつくのが上手い。
嘘を見抜くのも上手い。
私がどこへ行って、誰と会ったのかも、きっとわかっている。
わかっていて、こうやって訊いてきている。
…ああ、もしかしたら。
ルトは、賢い男だ。
店でルトが席を外し、戻ってきた時。
レンウは『世間話』をしていた、と言ったけれど。
あのとき、ルトは特になんの言葉も返さなかったが、本当はわかっていたのかもしれない。
「…たいしたことじゃないよ。広間で会ったから、適当に話したの」
眠くなったから寝よう、と言ってベッドへ足を進める。
しかし、彼は逃してくれなかった。
ダン、と。
壁に足をつけ、私の進む道を阻む。