月夜の翡翠と貴方【番外集】


「……ネオなら、逃がしたわ」


ヒュウウ、と窓から風が吹く。

彼からもらった、髪飾りが揺れている。

私の言葉に、男が目を見開いた。

「…逃がした、だと……?」

「ええ。逃がした」

ふらつきながら、立ち上がる。

次の瞬間、男の目に怒りが宿ったのが見えた。


……死ぬの、だろうな。


今にも振り下ろそうとしている男の剣を見て、漠然とそう思った。

けれどこれで私が死んでも、きっと男は外へ飛び出してネオを探しに行くだろう。

その隙に、タツビがネオを連れて、逃げてくれたら。

男の目が、怒りとともに私を捉える。

その手が、剣を持った。

それを見た瞬間、じわりと涙が浮かんだ。

……生き、たかったの。

彼の隣で、生きたかったの。

その笑顔を永遠に、目に映していたかった。

……死にたく、ない。

彼と出会うまでの自分なら、きっとこんな絶望的な状況で、こんなこと思わなかった。


彼がいるから、こんなにも生きたいと思える。


……嫌よ。

もう二度と、あの声が聞こえなくなるなんて。

触れて、もらえないなんて。

そんなの、嫌よ。


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