月夜の翡翠と貴方【番外集】
……絶対、って、いったから。
彼はやっぱり私を助けに、来てくれた。
しかし、いつの間にか男がルトの脇をすり抜け、私の後ろに立っていた。
ルトが、目を見開く。
男は、剣を持っていない。
先ほど蹴られた拍子に、部屋の隅に落ちてしまったらしい。
「…っこの、女がぁ!」
力強く、ぐい、と。
長い碧の髪が上に引っ張られ、怒りに満ちた形相の男が、目を見開いて私を見つめた。
その黒い瞳孔に、喉が鳴る。
強く引っ張られた、髪が痛い。
「……っ」
「ジェイド」
ルトが剣を構えたが、すかさず男が私の脇腹に手を添えた。
「……それ以上近づいたらどうなるか、わかるな?」
床に、ポタポタと血が落ちる。
ルトは舌打ちをして、動きを止めた。
男はニヤリと笑い、一層私の髪を引っ張った。
「オラァ、言えよ!ネオ・プリジアはどこにいる!?」
…もう、どこもかしこも痛いから。
らちのあかない状況に、苛つく。
私は男の手に掴まれている碧の髪を見上げて、目を細めた。
……この髪は私にとって、何よりも大切なものだった。
生きるために、必要なものだった。
けれど同時に、心の底から大嫌いでもあって。
壊してしまいたいと、何度も思ったけれど。
そうすれば生きられないのだと悟り、諦めてきた。