月夜の翡翠と貴方【番外集】
……でも、もう。
私は自分の足で、立てるから。
私は持っていたナイフを、男に気づかれないよう袖に隠した。
男がルトに、「ネオ・プリジアを探して来い!」と叫んでいる。
私はその隙にナイフを持った手を髪に近づけ、そして。
ーージャキッ……
男の掴んでいる髪ごと、ナイフで切り捨てた。
その拍子に、男が後ろへ倒れる。
サッと男から離れると同時に、目を見開くルトの前で、私は頭を小さく揺らした。
「………もう、いらないから」
舞う、碧の髪。
窓からさした月明かりに反射して、美しく輝く。
私は身軽になった髪を楽しむかのように、驚くルトを見た。
…この髪に運命を任せるのは、もうやめた。
私が今生きているのも、彼と出会えたのも、全てこの髪があったから。
…けれどもう、いらないのだ。
生きるために、髪を伸ばす必要はなくなった。
ルトのために、生きる。
その運命に、身を任せる。
出会いが、偶然だったからこそ。
私の手で、彼と共に生きる運命を、必然にしてみせる。