月夜の翡翠と貴方【番外集】


昨夜のルトの切なげな目が、私の脳裏に焼き付いている。

…ルトは、優しく愛してくれる。

私の弱さも受け止めて、愛してくれる。


しかしその優しさは、彼自身の足を引っ張っていて。


自由で、身軽で、猫のようなルト。

彼は、前に『縛られるのは好きじゃない』と言っていた。

私のような女に縛られては、彼は自由に動くことができなくなる。

仕事の邪魔にだって、なってしまうかもしれない。

『愛されていられる自信』がない私は、レンウに責め立てられても、なにも言い返すことはできなかった。

情けない。

情けなくて、悔しい。

しかも、それをルトに伝えてしまうなんて、なんて馬鹿な女なのだろう。


はぁ、とため息をついて、部屋の扉の前に立った。

…ルトは、部屋にくるのだろうか。

荷物は部屋にあるはずだから、きっととりにくるだろうとは思うけれど。

そうして扉を開けようとした、そのとき。



「ジェイド」


…その声に驚いて、とっさに横を見る。

しばらく呼ばれないだろうと思っていたので、私は声の主に目を見開いた。


< 56 / 455 >

この作品をシェア

pagetop