月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…な、なに……?」
声が、震えそうになる。
ルトは私と少し距離をとって、廊下の壁に背を預けていた。
ルトは黙って、私をまっすぐに見ている。
迷いがない目。
まっすぐで、きれいな深緑。
「…今日は、どうする?」
それは、毎朝起きたときに、ルトが口にする言葉だった。
『今日は、どうする?』
『どこへ行く?』
笑顔で、とても嬉しそうに訊いてくるその問い。
私はその度、嬉しさに心を温めるのだ。
ああ、今日も彼と一緒にいられるのだ、と。
「…レンウを見送ったあと、どうする?街、まわる?」
けれど、今その問いをしてくる彼の顔は、少しも笑顔ではなかった。
気を遣っているような、しかし僅かに厳しい色を残して。
私は、平然を装おうと心がけ、彼を見つめ返した。