月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…俺とお前はもう、主人と奴隷じゃないんだよ」
その言葉に、私は目を見開いた。
上を見上げると、彼は苦しそうに眉を寄せていて。
「…お前のなかで、これからもそれは変わらないんだとしても。もう、それだけじゃないんだよ」
…奴隷と、主人。
それだけでは、ない…………?
「わ…私は…奴隷だよ。ルトに買われた、奴隷だよ…っ」
そんなはず、ないのだ。
私は、奴隷。
ただの卑しい、奴隷だ。
ルトの言葉に焦りが募って、私は懸命に首を振る。
しかしルトは、なにも言ってはくれない。
じゃあ、なんだというの。
私とルトは、一体なんだというの。
やがてルトは、より近くに顔を近づけてきたと思うと。
優しく、私の頬にキスを落とした。
「………ル、ト」
「…考えといてね。今日の予定」
少し切なそうに優しく微笑むと、ルトは私の手首から手を離した。
踵を返し、向こうへ歩いていく。
「…………」
どこにいくの、とは、訊けなかった。