月夜の翡翠と貴方【番外集】


「…俺とお前はもう、主人と奴隷じゃないんだよ」


その言葉に、私は目を見開いた。

上を見上げると、彼は苦しそうに眉を寄せていて。


「…お前のなかで、これからもそれは変わらないんだとしても。もう、それだけじゃないんだよ」


…奴隷と、主人。

それだけでは、ない…………?


「わ…私は…奴隷だよ。ルトに買われた、奴隷だよ…っ」


そんなはず、ないのだ。

私は、奴隷。

ただの卑しい、奴隷だ。


ルトの言葉に焦りが募って、私は懸命に首を振る。

しかしルトは、なにも言ってはくれない。

じゃあ、なんだというの。


私とルトは、一体なんだというの。


やがてルトは、より近くに顔を近づけてきたと思うと。


優しく、私の頬にキスを落とした。


「………ル、ト」


「…考えといてね。今日の予定」


少し切なそうに優しく微笑むと、ルトは私の手首から手を離した。

踵を返し、向こうへ歩いていく。


「…………」


どこにいくの、とは、訊けなかった。


< 59 / 455 >

この作品をシェア

pagetop