月夜の翡翠と貴方【番外集】
「もう少し、嬉しそうな顔できないの?」
「…できない。しない」
「冷たいなぁ」
こんなやりとりが、好きだったりする。
穏やかで、裏の世界での汚いことを、忘れさせてくれる。
それなのにどうしようもない俺は、その世界に彼女を連れて行こうとしている。
『相棒』なんて優しい言葉で、危険な世界へ連れ込もうとしている。
ジェイドは眉を寄せて俺の顔を覗き込むと、優しく微笑んだ。
「…ふ、変な顔」
純粋で優しいジェイドは、果たして俺に出会ってしまって良かったのだろうか。
奴隷屋にいたほうが、幸せだったのではないか。
俺が手にいれてしまった花は、後悔していないだろうか。
俺は眉を下げて、ふ、と笑う。
「…なぁ、ジェイド」
きっと、訊いてはならないことだ。
なにを思っていても、彼女は俺が望んでいる答えを口にするだろう。
良くいえば、従順な優しさ。
悪くいえば、本当に俺のいいなりな、奴隷。