愛して

父は食い下がった。
何故だ、何故、別れるんだ、と。
必死になって母にすがりつく父を母は凪ぎ払った。


『煩いわね。貴方みたいな人、本気で愛す訳ないじゃない。馬鹿じゃないの?利用されているとも知らないで。毎日働いてくれてご苦労様でした』


母は父を嘲け笑うように見てから、それじゃ、と言い家を出た。
_その日以降、父は働かなくなった。
毎日毎日、リビングでブツブツと何かを呟くようになった。動かず、ただ、ずっと。
近所の人たちも皆、僕らを煙たがるようになった。僕が外を歩くと皆避けていく。
泣きたかった。大声をあげて。でも、泣いたら母に負けてしまうような気がして。
ずっと、我慢した。

そして、まだ十歳にも満たない僕が、世の中を悟った。
嗚呼、人生はこんなに酷なのか、と。人間の未来に待つのは絶望だけだと。

だって、どう願ったって、あの頃には戻れないのだから。
なんと、良くできた悲劇のシナリオだろうか。僕はそのシナリオにまんまと填められたんだ。




_神の手によって。
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