愛して
side 博人
≪可哀そうな子≫
彼奴は言われなれてるよ、大丈夫だよってはぐらかす。
いつもそうだ。嫌なことでも全部隠して、独りで泣いて、独りで閉じ篭る。
もっと、もっと、頼ればいいのに。
俺でよければ、力になるのに、どうして頼らない?どうして__。
__「ねえ、博人くん。知ってる?転校生が来るんだって!」
「転校生?」
「うん!何か、男の子で二つ下の子らしいよ。なんか、離婚が理由って噂だよ。知ってた?」
知らなかった、と言うよりも、知る気がなかった、といった方が正しいだろうか。
二つ下か。この学校は、人数が少なく、あまり学年ごとにクラスを分けるということをしないため、二つ上とか一つ下とか来るときはしょっちゅうあった。
俺は、普通の、極々普通の男。俺は、それを理解して、きちんと自分を見定めて生きてきた。だから、周りの自分は一番と思ってる奴等とは違う。
彼奴らとなんか同じじゃない、同じじゃない、同じじゃない。
「どんな子なのかなー?ね、楽しみ」
愉しそうに騒いでいる女子も、ワイワイと遊んでいる男子も。
全員俺とは違う。
こんな、狡賢いやつらとは、違う。
「あ、チャイム鳴っちゃう。座んなきゃ」
そういって、自分の席に戻る。
転校生、嗚呼、君は何と不運だろうか。でも、君もきっと、そうなんだろう。
きっと、自分が一番だと思い込んでいるんだろう。
可哀そうに、君を助けてくれる奴なんて、独りもいないさ。
ガラリと教室のドアが開いて、"転校生"が入ってくる。
「…片貝、泪です。宜しくお願いします」
暗い顔でそういった、転校生。
クラス中の顔が、意地悪く歪む。
上靴を履いていない女の子が、ほっと溜息をつく。
"これで、私は解放される。よかった、やっぱり私は選ばれた子だ"と。
そう、此処のクラスでは______いじめが起こっている。