愛して
side 博人
「きゃははっ!!かわいそーだよー」
愉しそうに笑う鬱陶しい女子の声。いじめ集団の真ん中に立つ転校生はただ茫然と其処に立っていた。"嫌だ"とも、"助けて"とも言わず、ただ其処にいた。
何をされても動じなかった。
「おい、なんか言えよ、つまんねえな。おい!」
クラスの男子に胸倉を掴まれると、転校生はぐっとその男子を見る。
その眼は、まるで、人を哀れむかのような、嘲嗤うかのような眼だった。
嗚呼、お前は可哀そうだ。そう、眼で語っていた。
「なんだよ、手前。その眼は」
苛々とした様子で、転校生に問う。転校生は少し間を置いてから、薄く笑みを浮かべてこういう。
「お前たちが可哀そうだと思っただけだよ。僕を苛めて、それで、自分は強いって。お前たちは弱虫だ。哀れな人間だなあ」
その言葉にカッとなったのか、その男子は転校生を殴る。
周りはどよめいて、ひそひそと話し始める。"やりすぎだ"と。
転校生の口から血が出た時、いじめを見ていた一人の女子が、廊下に出て、先生を呼びに行った。
それを見ていた女子が言う。
「ちょっと、やりすぎでしょ」
一人の女子が言うと、皆が賛同したように頷く。皆、その男子から離れていく。
先程まで、愉しく"お仲間ごっこ"をしていたのに、これ程までに簡単に、その関係が壊れていく。
それをみて、転校生は嗤った。
嗚呼、やっぱり、哀れだなあと言う眼で、愉しそうに、愉しそうに___。