愛して
side 博人
あの後、転校生は、病院に送られた。
ただ、口を切っただけだったようだが、先生は凄く心配して。
その割には、親が来なかった。しかし、それを転校生は何も言わなかった。
それが普通と言うように。
苛めの集団は怒られ、停学になった。周りの見ていた子達は、そのことに対し、心底安心したらしい。今までいじめられていた子たちにいそいそと近づく。
それを、俺はただ見ていた。
嗚呼、やっぱり、人間だ。薄汚い、人間。可哀そうだ、可哀そう__。
「可哀そう」
そう、後ろで声がした。
吃驚して振り返ると、其処に立っていたのは、頬に湿布を貼った転校生で。
「な、何?今、なんて__」
「可哀そうだね。あんた」
光のこもってない目で、言われる。
可哀そう?俺が?どこが…?
あの、嘲るような笑みを、眼を、向けられる。俺に。どうして?
「あんた、このクラスで一番可哀そうだよ。人を見下してるでしょう?自分だけは違うって思ってるでしょう?自分は特別だって」
は…?何言って…、それはいつも俺が、ほかの奴等に…。
「"俺は、あいつらとは違う。あんな最低な奴らとは、絶対に。俺は違う"って思ってるでしょう?毎日。でも、それって、自分は特別って思ってるってことじゃん」
冷たい、冷たい眼差しで目を向けられる。「彼奴らと、あんたも同じだ」そう言っている。
「もし、変わりたいなら、努力しなきゃ。他と違くなりたいなら。それをあんたが望むなら。でも、其れができないのであれば、あんたは同じだ」
そういうと、俺の横を過ぎ去る。
何も、無かったかのように。普通に、平然と、あっさりと。
俺は、後ろを振り返ると、相手を呼ぶ。
「おい!お前、名前、なんていうんだよ」
「…聞いてなかったの?自己紹介の時。…片貝泪。普通の平凡な男子生徒だよ」
俺が、他人に名前を訊いたのは、この時が初めてだった。