愛して


side 博人


「行方、不明……?」


先生の言葉から出てきたのは信じられないことだった。
俺と一緒に買い物をする筈だった女の子が昨日からずっと行方不明らしかった。携帯に連絡をしても、其処ら中探し回ってもいなかったらしい。
そして、家を出ていったのは、丁度お昼過ぎの午後1時。俺との約束の場所に間に合うように凄く早く来ようとしてくれたらしかった。
「クラスの子と約束あるから」と、そういって場所も言わず、出ていったらしい。
が、それから夜になっても一向に帰ってくる気配がなく、心配した親が友達に連絡をかけたら、俺と一緒に出かけたと言った。
昨日の留守電にかけてきたそうだが、俺は昨日、泪との買い物に遊び疲れて、留守電も見ずに寝た。
俺が知らない訳だ。


「本当に、何も知らないのか?」


俺はブンブンと首を振る。先生の厳しい目、人を疑う目。
小さいこの狭い部屋の中、二人しかいない空間の空気がはりつめる。息苦しい。
先生は、はあ、と息を吐くと「ふりだし、か」とぼそりと呟いた。そのあとすぐに俺は解放されて教室に戻る。
疑いが晴れてからも俺を見る冷たい視線は変わらなかった。全ての友人が裏を返して俺を敵にした。
人間はこんなものだ。知っていた。泪が転校してきてからずっと。
けれど、やはりそれを自分にされるとこたえる。
唯一、俺に普通に接してきたのは泪ぐらいだった。他は皆、無視したり、ぎこちなかったりでろくに会話も出来ない。
この時、俺は泪が救いの神だと思った。この時は___。
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