愛して

あいつがいるから。
あいつが、あいつが、あいつが。
何故、嫌がらせをしても、立ち向かってくる?
何故、別れようとしない?腹が立った。
小さな暗いアパートの一室、ぬいぐるみをナイフで刺しながら思う。
中から出てきた綿が、辺りに舞う。


「あんな女さえ、いなければ」


怒りと憎しみと悲しみ。
全てが混ざって、最終的にたどり着くのは殺すの一つ。
しかし、それを寸でのところで、博人に嫌われたくない、博人に軽蔑されたくない、博人の笑顔を奪いたくない。
そんな気持ちが抑えていた。

しかし、そんな理性は、すぐに壊されることになる。


「…は?」


「だから、別れたってば。二週間前に」


電話越しに聞こえてくる声からは、真実と信じ難い真実が告げられる。
未だ、付き合って一ヶ月も経っていない。
あんなに仲の良かったカップルが、どうして急に。
僕の嫌がらせにも立ち向かっていて、絶対負けないと言っていたのに。


「他に、好きな人ができたって。俺のとこじゃ不安だって。もう、金輪際、私に話しかけないでって。そう、言われた」


自嘲気味に言う博人の声からは、まったく生気が感じられなくて。
電話の向こうからは小さく啜り泣く声が聞こえて、
「お前の事、バカにしててごめんな」なんて謝ってくる。


「ひろ…」


「ごめん、切る。おやすみ」


と一方的に切られてしまった。
嗚呼、愛しの博人。傷つけられてしまったね。
今すぐにでも抱きしめて、撫でてやりたい。慰めてやりたい。

…けどまず、やることがある。
少しだけ、お仕置きしてあげないと、ね?



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