愛して

side 博人

嗚呼、これから、どうしようか。
行く宛もなく、彷徨う街。
人が、猫が、車が、俺を嘲笑うかのように通り過ぎていく。


『ごめんね、博人。私、博人と一緒じゃ、落ち着けない。博人といると凄く怖い。二人で乗り越えようとか言ったけど、やっぱムリ。…あと、私、好きな人ができた。今、その彼とうまくいってるんだ。だから、もう、別れよう?金輪際一切口きかないで』


声が出なかった。反発もできなかった。
固まって、俺の部屋から出ていく相手を見ていた。
引き留めようとも、相手の腕を掴むこともできず、ただ、ただ見ていた。
彼女が出て行った後、そのあとはよく覚えていない。
起きると、周りは散らかっていて、自分は傷だらけで。
唯との記憶の写真があちらこちらにあって、嗚呼、自分で荒らしたのか。と思った。
それと同時にまた涙が溢れてきて。
このままじゃ、悲しみに押しつぶされそうで。
そんな時に浮かんだ名前が、泪しかいなかった。すぐに電話を掛ける。
ワンコール、ツーコール……。


『もしもし?博人?どうかしたー?』


いつもと変わらない呑気な声で電話に出た泪に懐かしさを感じた。
俺は、泪に全てを話した。包み隠さず、全部。
泪は驚いたように聞いていた。
全て話し終えると、なんだか、また、涙が溢れて。
そのまま、相手の話も聞かず、電話を切ってしまった。

もう、何も、する気が起きない。


「唯…」


とぼとぼと歩く線路沿い。其処にある、一件のマンション。
いつの間にか、俺の目指す方向は、彼女の新しい家に向かっていたらしい。
彼女の部屋は402号室。新しい彼と同居だろうか。
きっと、今は、部屋で新生活の準備でもしているんだろう。
そう思うと、胸が痛くなった。
腕時計を見ると、もう四時過ぎだった。


「早く、帰ろう」


そう呟いて、帰ろうとした、その時だ。


「きゃああ!!!」


悲鳴が聞こえた。さっきのは、間違いなく、唯の悲鳴だ。
駆け出す。身体が勝手に動いていた。
部屋の前まで来る。扉は開いていた。


「唯!!」


怯える唯に跨る一人の男。それは_
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