副社長は溺愛御曹司
sched.11 転々
ヤマトさんが、そろりと私の肩を押しやって、うしろへ下がらせる。
私はそれに従って、足音を立てないように、より暗がりへ数歩、身体を引いた。
さいわい延大さんたちは、私たちには気がついていないようで、なにやら熱烈に抱きあっている。
ここからでもわかるくらい、濃厚に唇を合わせながら。
私とヤマトさんは、どうすることもできず、凍りついたまま、それを見ていた。
どうしよう。
ていうか、どういうこと?
いつの間にか私は、ヤマトさんに肩を抱かれているような状態で。
思わずその腕から逃れようとしたら、しいっ、とたしなめられた。
そうだ、ここで見つかるのは、なかなか気まずい。
場所を変えましょう、と目で合図すると、ヤマトさんがうなずく。
気配を殺して、一歩踏み出そうとした時。
ヤマトさんの背広から、携帯の振動音が、物音ひとつしない裏庭に、鳴り響いた。
とっさに顔を見あわせて。
延大さんたちのほうを振り返る余裕もなく、いっせいに駆け出す。
ヒールで、可能な限りの全力疾走をして。
私の手をつかんだヤマトさんに、引きずられるように、裏手の路地を奥へ奥へと走った。
「…なに、あれ」
「知りません…」
動揺が響いてるんだろう、たいした距離を走ったわけでもないのに、ヤマトさんまでもがぜえぜえと息を切らしている。
彼はメールだったらしい携帯を確認して、パチンと閉じた。
ここはどこだってくらい、来たこともないようなところまで、入ってきてしまった。