副社長は溺愛御曹司
「だって、なかなか、あの、信じがたいというか」
「あんな嘘ついて、俺、なんか得する?」
「違います、そういうことじゃなくて」
じろりと見られて、気ばかりあせる。
だって、そもそも。
6つも上の代表取締役に、あんな無邪気に好きだと言われて、本気だなんて受けとめる女が、いる?
へどもどと、そんなような言い訳をすると、ヤマトさんがこの上なく憮然とした声を出した。
「じゃあ、代表取締役が、6つ下の女の子に好きだって言う時は、どうすればいいんだ」
「………」
痛いところを突くなあ。
私はどう謝罪したらいいものかわからず、肩に下げたバッグを胸に抱えてうつむいた。
「起きたらいなくて、全然なんにもなかったみたいに振るまわれて。俺がどれだけ落ちたか、想像してみろよ」
「申し訳ありません…」
今になって、私は、どれほど失礼で、申し訳ないことをしていたかに思い至った。
でも、私にも言いぶんは、あるんだけど。
ヤマトさんが、さらにふてくされたような声を出す。
「こういう話の時に、そういう謝りかたは、なしだ。俺が立場を利用して、咎めてるみたいじゃないか」
「じゃあ、なんて言えば…」
困って顔を見あげると、ごめん、でいいんだよ、と怒ったように言われる。
そのとおりに、ごめんなさい、と謝ると、ため息が降ってきた。
「いったい、俺がどういうつもりだと思ったの」
「お別れの、挨拶みたいなものかと…」
「神谷って、お別れの挨拶に、あんなことするの?」
大サービスだね、と目を丸くするヤマトさんに、しません、しません、と慌てて手を振って否定する。
するわけないでしょ、そんなこと。