副社長は溺愛御曹司
sched.02 顔
「華があるねえ」
広報部の佐々木さんの言葉に、そうですね、と冷静なあいづちを打ちつつ、内心では強烈に賛同していた。
例の、CS番組のインタビューが始まるところで。
場所は、うちの会社の1Fにある正面ロビーだ。
ただのロビーとあなどるなかれ、無機質なスチールと豪奢な大理石を、絶妙なバランスで組みあげたこのエントランスロビーは。
その近代的なセンスから、雑誌の取材が来るほどの美しさなのだ。
そのため、ジーンズによれよれのシャツだったりする、開発部門の社員は、正面玄関は使用禁止となっている。
それどころか、この1Fに姿を見せることすら禁じられ、彼らは地下の通用口から入り、1Fを通らないよう各自のフロアへ行く。
まあ、ソフトウェアメーカーなんて、どこも似たようなもんだろう。
機材に囲まれてライティングのチェックを受けているヤマトさんを、少し離れたところから眺める。
打ち合わせのため、インタビュアーと資料をのぞきこみながら、くつろいだ様子でポケットに手を突っこんで立つその姿は。
いつもの人懐こさは影をひそめ、完全に企業の代表者の顔だった。
「キャッチーだからさ、取材も、ヤマトさんを名指しで来るところ、増えたんだよね」
「それもどうかと思いますよね…」
佐々木さんが、本当だよ、とため息をつく。
社長である杉田さんは、プロパーではなく、外部から引っこ抜かれて社長職に就いた、40歳そこそこの人だ。
いわゆる「サラリーマン」というイメージそのものの、中肉中背で眼鏡、というタイプで、言っちゃなんだけど見栄えはしない。
本人もそれをわかっていて、こういう顔出しの取材はさっさとヤマトさんに回してしまう。
だけど、いち企業の名を冠す取材に、そうたびたび「副」社長が顔を出すのもおかしく、窓口である広報部は、苦労しているらしい。