副社長は溺愛御曹司
本当に、どーしよ、だ。
「神谷、これ、明日の役員会で配布したいんだ。機密だから事後回収、頼むね」
かしこまりました、と書類を受けとり、機密文書用の鍵つきのキャスターに入れる。
今日中に役員の人数分コピーして、シリアルナンバーを振るよう、デスクトップ上の付箋アプリに書きこんだ。
「まだ『神谷』なんてお呼びなの」
「案外、甲斐性なしなのかしら」
「お育ちがいいってことにしましょうよ」
役員会の出席者について私に説明していたヤマトさんが、ぎくりと身体を固くして、居心地悪そうに、室内に目を泳がせる。
「ああ見えて、相当、手が早いらしいの」
「まあ、爽やかなおサルさんもいたものね」
「まさかもう、過去の話よね?」
そんな、非難するような目で私を見られても、困ります、ヤマトさん。
「俺、これから、内線で呼んでもいい?」
「いいですが、チキン呼ばわりされるだけだと思いますよ…」
悔しそうに唇を噛んで、秘書室を出ていく背中に、3人の、あからさまなくすくす笑いが浴びせられた。
かわいそう…。
「超やりづらい…」
「仕方ないです。頑張りましょう」
飲み物を持っていくと、ぐったりとデスクにひじをついたヤマトさんが、沈鬱な息と共に、半泣きのような声を出した。
この数日、変に他人行儀にするのもしらじらしいし、かといって気を抜くと、やっぱりそれなりの空気が出てしまうしで。
どうしたものかと思っていたんだけど。