副社長は溺愛御曹司
そもそも、ここ数週間、私とヤマトさんの関係がぎくしゃくしていたこともあり。

それが元どおりになったというだけで、和華さんと暁さんが、何かを感じとるには十分だったらしい。


ちょうど日曜にあった、秘書検定の面接試験の控え室で、何かあったの、とダイレクトに訊かれてしまい。

しらを切るのも品がなく思えて、どうしようと思案していたら、久良子さんがさらっと口を割ったのだった。



「こんなの、さっさと周知の事実にしちゃうほうが、いいのよ」

「約束する、秘書室外には漏らさないわ」

「ケンカしたら言ってね。すずちゃんの味方するから」



確かに、秘密の恋を楽しもうなんて気がさらさらない以上、このほうが、へたに隠すよりずっと楽だし、結局は仕事にも集中できる。

けどまさか、ヤマトさんに対してあんな洗礼が始まるとは、思わなかったのだ。





「とか言いつつ、久良子さん、兄貴とのことは、隠してるんだろ」

「ずるいですよねえ」



ずるすぎ、とヤマトさんが渋い顔でうなずきながら、広報から回ってきた書類に目を通した。



「こちらは、サインも冊子に刷りこまれるそうです。コメントと一緒に」

「そっか、じゃ、万年筆にしよ」



ヤマトさんがデスクのペントレイに手を伸ばし、こういう時にしか使わない万年筆で、サインを入れる。



「これ、来年度の会社資料だよね」

「ええ、年明けから、新卒説明会も始まりますので」

「そこで、秘書志望をひとり、とれないかなあ。でも、入社は一年後か…」

「私のことでしたら、お気遣いなく」



そうなの? とヤマトさんが私を見る。

はい、とうなずいた。



「いずれ、自然と異動のお話も、出るでしょうし。それまでは、これまでどおり希望を出しつつ、待たせていただきます」

「いいの?」

「今の仕事も、今しかできませんから」


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