副社長は溺愛御曹司
今、できることを、精一杯やっていれば。

いつか、波が来るし、少なくとも後悔はしないだろう。

私は、そう思うようになっていた。



さんざん考えてたどりついた答えでも、こんなふうに、ひょいと偶然にさらわれることもある。

それでいいんだと思う。

悩んだことは、無駄じゃないし、それがあるからこそ、何も悔いることなく、こうして笑っていられる。

なら、その時その時を、一生懸命過ごすだけ。

そう思ったほうが、楽しいじゃないか。



「ヤマトさんには、ご負担かもですが」

「いいよ、そのうち、お姉さんたちも、飽きると思うから」



たぶん…と自信なさげにつけ加えるのに、心から気の毒になってしまう。



「残念でしたね。せっかく選んだ方が、辞めてしまって」

「うんまあ、俺が選んだわけじゃないし」



え。



「面接されたんでしょう?」

「いや、後半は、もう邪魔だって言って、木戸さんが参加させてくれなかった」



そうだったんだ。

てっきり、ああいう人が好みなんだと思ったんだけど。

すると、あれさあ、とヤマトさんが、伸びをするように、頭の後ろで手を組んだ。

ワイシャツに包まれた身体のラインが、綺麗に浮き出るのに、思わず見入ってしまう。



「たぶん、木戸さんが、神谷っぽいのを採ったんだと思うんだよね。俺用に」

「私っぽい?」

「背とか体型とか、普通で。しっかりしてるけど、見た目ちょっとおとなしめな、可愛い感じで」



えっ、私、あんな感じ?

純粋に、素敵な人だと思っていただけに、現金にも喜んでしまう。

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