副社長は溺愛御曹司
けどヤマトさんは、眉を寄せて、面白くなさげな声を出した。



「俺、どんだけ神谷じゃないとダメだと思われてるんだろうって、引きあわされた時、複雑になっちゃったよ」



思わず笑った。

無理もない、ヤマトさんは、個人秘書としては、私としか組んだことがないから、どうしたって周囲も、その印象が強いんだろう。



「それにしたってさあ、見た目をそろえたって、仕方ないだろ。俺をバカにしてんのかって、思うよな」

「ですが実際、濱中さんは優秀な秘書さんでしたし、間違ってはいなかったんじゃないでしょうか」

「辞めちゃったの、責任感じるなあ。俺、あの頃、めちゃくちゃテンション低かったし」



悪いことしたなあ、とヤマトさんがため息をついた。

私も、つい一緒に息をつく。

当時は知る由もなかったけれど、今思えばヤマトさんの低気圧の原因の一端は私にもあったわけで、それを思うと、反省が募る。


ヤマトさんが、ふとデスクの上の手帳を開いて、それを眺めながら言った。



「明後日の取材さ、このライターさん、顔見知りなんだ。ちょっと話したいから、うしろ30分くらい、俺の予定空けてくれないかな」

「かしこまりました」

「週末は、空いてる?」

「今週は、何も。来週は、土日とも年忘れの会が入ってますね」

「俺じゃないよ、神谷の」



え? とその顔を見ると、にこっと笑った。





「デートしよ」





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