副社長は溺愛御曹司

「最初のデートなんて、こんなもんだろ」

「『最初のデート』なんて、そんなに知りませんので」



ショップのウインドウを眺めていたら、また頬にキスを受けたので、じろっとにらんでやると、ヤマトさんが心外そうな声を出した。



「なんか、まだ誤解してない? 俺は別に、全部の女の子と、こういう恋人っぽいことしてたわけじゃないよ」

「それはそれで、問題かと…」

「なんで? 泣かせたこともないし、終わる時だって、変にもめたこともないのに」



それはね。

あなたに、その笑顔で「次の子来たからバイバイ」なんて言われたら、誰だって、うん、て以外、言えなくなるからですよ。

たぶん、絶対ね。

言ってもわからないと思うから、言わないけど。


何が問題なのか、本気でわかっていない様子のヤマトさんを放っときつつ、私は自分のほしいものを物色した。

ショールがほしいんだけど、もう持ってるしなあ。

さっき見たブランドのパスケース、可愛かったなあ。

そもそも副社長って、どのくらいのものをねだって許されるんだろう。

というか逆に、それなりのものをリクエストしなきゃいけないようなプレッシャーが、なくもない。


片手をヤマトさんに預けたまま、そんなことを考えながら歩行者天国を歩いていると、ふと隣からの視線を感じた。

見あげると、楽しそうに笑う顔と目が合う。



「神谷って、考えごとしてる時、口が動くよね」

「えっ!」



ほんと!?

思わず、空いた手を口にやった。


それって、ひとり言に近い恥ずかしさじゃない?

でも、25年生きてきて、誰にも指摘されたこと、ないんだけど。

みんな、見て見ぬふりをしてくれたんだろうか。

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