副社長は溺愛御曹司

「今度、秘書室のみんなに訊いてみなよ」

「いいです」



なんとなくマフラーを口元まで引きあげて、動揺のあまりほてった顔も隠れないかなあと思っていると。

まったくそんなことは意に介さないヤマトさんが、真っ赤、と私の耳をつかんだ。


振りほどこうとする前に、顔が近づいてきて、両耳をふさがれたまま、キスが来る。

往来でするレベルじゃ、ないでしょ、という感じのキスに、さすがに胸を突きとばすようにして、引っぺがした。



「誰も気にしないって」

「そうかもしれませんけど…」



ヤマトさんは声を立てて笑うと、私の肩に、気軽に腕をかけて、ぐいと頭を引きよせる。

歩きにくいし、恥ずかしい。

なのにヤマトさんは、お構いなしに私の髪やら頬やらに、ご機嫌に口づける。


もうっ。

犬みたい、この人。










「まだ、足りない?」



意識が飛びそうになった私を見おろして、ぬけぬけとそう訊いてくるのに、もう十分です、と正直に答えると。

違うよ、とヤマトさんが吹き出した。



「そういう話じゃなくて。まだ俺が神谷を好きって、信じられない? って訊いたの」

「ああ…」



そっちか。

よかった、と柔らかいソファの袖に頭をうずめながら、思わず息をついた。

光量を落としたリビングで、洋画のDVDがメニュー画面に戻ってしまっている。

もう、全然観られなかった。


首のつけねあたりが、ぴりぴりと痛い。

痕がついている感じではないけれど、気になってさすっていたら、ごめん、とヤマトさんがすまなそうな声を出した。



「興奮すると、噛むらしいんだよね、俺」



少し恥ずかしそうに、気まずそうに言いながら、失敗した、というように犬歯をなめる舌が、ちらりとのぞく。

ほんとに犬だ。

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