副社長は溺愛御曹司
overtime
ヤマトさんがくれたのは、腕時計だった。
ぽかんと見あげると、彼がにやりと笑う。
「どうしてわかりました?」
「観察力は、経営者に必須の能力だよ」
週末は、ヤマトさんが仕事のおつきあいで埋まっているため、平日のイヴ当日に、簡単な食事をすることにした。
今回も仕切りは完全にヤマトさんで、これまた素敵にシックな、イタリアンバールだ。
アンティークのテーブルセットに向かいあって、ほどよくカジュアルな食事をしつつ、ワインを飲む。
私は、ずしりと上質な布張りの箱に入った、黒いベルトの華奢な時計を、声もなく見つめた。
本当は、一番ほしかったんだけど、ねだるには高価だしと思って、態度にも出さずにいたのだ。
すごい、なんでわかるの。
中身をひょいととりあげたヤマトさんが、ベルトを外して、私の腕に回した。
「それ、とっちゃいなよ」
今つけているほうを顎で指され、金属のベルトを外す。
新しい時計は、我ながらエレガントに、私の手首におさまった。
「ありがとうございます」
「ううん、塗りかえの一環だから」
塗りかえって。
ぽかんとしていると、外したほうの時計をトンと突いて、ヤマトさんが言う。
「これ、前の彼からのプレゼントだろ」
「…どうしてわかるんですか」
「つきあいが長いと、持ち物は自然と、もらいものになってくだろ。それにこれ、今の神谷がつけるには、ちょっと幼いし」
ものすごい鋭さだ。
これはまだ学生の頃、誕生日に、祐也が買ってくれたものだ。
特に買い替える必要も感じなかったので、何も考えず、そのままつけていたんだけど。