副社長は溺愛御曹司
「たぶん、財布と、パスケースと、キーケースあたりも怪しいな」
図星を指されて、何も言えない。
さすがというか、意外とこの人、怖いな。
「ま、おいおいね」
脚を組んで、テーブルにひじをつきながら、にこっと笑う。
ちなみに私の贈ったマネークリップと小銭入れは、予想を超えて喜ばれて。
特に小銭入れは、昔持っていたんだけれど、いつの間にかなくしてたので、ずっとほしかったらしい。
いつの間にかなくすって、怪しい。
誰かんとこにでも、忘れてきたんじゃないんだろうか。
まあいいけど。
「データベース見てると、和之さんて、先輩社員に、まったく引けをとりませんね」
「仕様担当をはさまずに、プログラマと直接話せる、稀有なプランナーだからね。まあ立場上、そのくらいできて当然だろ」
オリーブをひょいと口に入れながら、ヤマトさんが言う。
意外に厳しいお兄ちゃんだ。
「3月で、修行も終わりですか」
「うん、そしたら、外に出るだろうな」
「そうなんですか」
「こういう会社におさまってる感じじゃ、ないだろ。あいつは器用だから、もっと幅広く働けるとこに行きたいんじゃないかな」
そうなんだ。
もしかしたら、一緒に働く機会もあるかもと思っていたのに、いなくなっちゃうのか。
「兄貴も、今のコンサル会社から独立したいって言ってるし、来年度あたり、動くと思うよ」
「えっ」
そんな。
みんないなくなっちゃったら。