副社長は溺愛御曹司
「どしたの」
「さみしいなあ、と思って」
ワインを飲んでいたヤマトさんが、私の顔をのぞきこむようにじっと見て、面白がるように笑った。
「そういう、うしろ向きなところは、神谷の悪いくせだね」
「うしろ向いてます?」
「開発にも、楽しいこといっぱいあるよ。ていうより、肉体的に忙しすぎて、さみしいなんて思ってるヒマ、ないよ」
バリバリ開発出身のヤマトさんが言うと、説得力がある。
私は、チーズ風味のスティックをポキンとかじりながら、そっか、と考え直した。
そりゃそうか。
新しい出会いだって、たくさんあるんだ。
そういえば年が明けたら、検定の合格発表がある。
それなりに手ごたえがあったと言ったら、久良子さんが、そういう時は、受かってるのよ、と太鼓判を押してくれた。
秘書検定の1級を持ってる、ソフトウェアの開発者なんて、きっとそんなにいないよね。
私の顔が明るくなったのか、ヤマトさんが、にこっと顔をほころばせる。
「行けるでしょうか、今度こそ」
「行けるよ。うち、待遇、悪くないし。すぐ見つかると思う」
行けますように、と祈る気持ちでいると、まあいずれにせよ、と彼が続けた。
「最終手段は、使わずに済むといいよね。いくらなんでも、ロマンがないだろ」
「そうですね…」
そういう問題じゃない気もするけれど、確かに、手段としての結婚なんて、悲しすぎる。
ていうか、ヤマトさんはやっぱり、そういうの前提のつもりなんだろうか。
私は正直、まだそんなこと、具体的には考えられないんだけど…。