副社長は溺愛御曹司
考えこんでいたら、視線を感じた。

顔を上げると、面白そうににやにやとする顔と、目が合う。



「口、口」



指を差されて、はっと手で覆った。

また、動いてた?

ヤマトさんが、声を上げて笑う。



「安心していいよ。別に俺、急いでないし」

「はあ…」

「でもねえ」



たぶんねえ、と双方のグラスにワインをそそぎながら、陽気にもったいをつけた。



「そのうち、神谷のほうから、したいって泣きついてくると、思うんだよねえ」



なにその、ものすごい自信。

はい、とすべらされたグラスを受けとりつつも、あぜんとするばかりで、何も言えない。

そんな私を、ちらっと見て、ヤマトさんがにやりと笑った。



「だって俺、そういう相手として必要なもの、全部持ってるもん」

「若干、余分に持ってますけどね…」

「気にならないくらい、俺を好きになるんじゃ、なかったの」

「なりますよ」



あまりの自信に、見てろ、この野郎、とおかしな闘志が燃えてきた。

大好きになって、自分に自信をつけて、いっそう惚れさせてやる。

そして絶対、ヤマトさんから言わせてやる。



「怖い顔しても、可愛いだけだよ」



バカにするように言われ、かっと顔が熱くなるのを感じて、口にしていたワイングラスに目を落とす。

悔しい、悔しい。

私もこんなふうに、尊大なくらい胸を張って、好きって言えるようになりたい。



見てろ!







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