副社長は溺愛御曹司
シャイネス・ガイ【番外編】
vol.1
いないじゃん。
誰も聞いていないのを承知しつつ、つい言葉がこぼれた。
耳慣れない音でがばっと跳ね起き、どうやってとめたらいいのかさっぱりなまま、ベッドサイドのアラームと格闘して。
ようやくしつこい音を消し、ベッドから身を乗り出す自分が裸であることに気がついた。
そうだ。
ゆうべは。
抱きしめて眠ったはずの、華奢で柔らかい身体を探して、ベッドを振り返るも。
そこには、誰かがいた痕跡すらなく、完全にもぬけの殻だった。
いないじゃん。
冷たいシーツに手を置いて、呆然と、もう一度、つぶやく。
どういうこと。
ヤマトは、サイドテーブルになぜかきちんと置いてある、自分の携帯で時刻を確認すると。
一度、思いきり伸びをして身体をほぐしてから、ロビーでの集合時刻に遅れないよう、ベッドから出て、バスルームに向かった。
照れちゃったのかな?
最初はそんな、気楽な考えだった。
控えめなイメージを嬉しい方向に裏切って、なかなかに楽しげで奔放だった、ゆうべの肢体を思い出す。
やっとだよ、と熱い湯を浴びながら、すねるような、満足なような思いだった。
(やっと、気づいたよ、神谷の奴)
いつ気づくんだろうと思ってたよ。
鈍そうだから、ゆっくりだろうなとは、覚悟してたけれど。
そんなことをつらつらと考えながら、自宅の広い浴室を恋しく思って。
そういえば、自分は目覚ましなんかセットしなかったな、と思い返し、彼女の細やかさに、誇らしさとありがたさを噛みしめた。