副社長は溺愛御曹司
「ヤマトだって、そんなに休めないだろ」
「でも、開発時代より、全然休めそうだよ」
神谷の組んだスケジュールを見て、びっくりした。
取引先と休みが重ならなかったりすると、向こうの都合に合わせなければならないこともあり、全日程休めるわけではない。
けれど、ぱらぱらと予定があるくらいで、一週間の夏休みのうち、半分くらいは実質休みだ。
「神谷ちゃんが、そう組んでくれたんだろ。ここんとこ、お前が忙しくしてるから」
「いい秘書さんだね。こんなのづきで、かわいそうに」
ほんとだよなあ、と目を見かわす上と下に、なんでこんな散々な言われようなんだ、とひとり孤独な気分でビールを飲んだ。
ようやく、なんとか、今の立場で何ができるのか、わかってきた気がする。
開発時代、ずっと課題だと感じていて、かつソースのオープン化の障害でもあったサーバ環境の改善も、一歩前進した。
IT関係企業の集まる、見本市のようなイベントで、名刺交換をしたのがきっかけで。
以前から、いい技術とモラルを持っているなあと思っていたネットワークサービスの企業と、つながることができたのだ。
「人は、覚えられるようになったの?」
「うん、まあ、前よりは」
「それも、神谷ちゃんのおかげだろ」
うん、とうなずくと、和之が、どういうこと? と首をかしげた。
「時間の空いた時、名刺を使って、その人の特徴をあてる、みたいなトレーニングをやってくれるんだ」
実際そのおかげで、人のどんなところに注目して、どう記憶すればいいか、徐々にわかってきた気がしている。
和之は、へえ、と目を丸くして。
「親身な、ほんとにいい秘書さんだね」
それに比べて、という無言の非難を露骨にくっつけて、兄を見つめてきた。