副社長は溺愛御曹司
子供だと思ってたのに、こいつももう社会人か、と感慨にふけりながら、年々生意気になってくな、とくわえた煙草につい愚痴る。

実家から大学に通ったヤマトは、延大に比べて、この末の弟と過ごす時間が長かった。

というより、あまりに早く兄ふたりが家を出てしまっては、弟がかわいそうな気がして、実家に残ったのだ。


幼い頃からマイペースで、他人に何を言われようが気にせず、自分のやりたいことだけを貫く奴だったけれど。

成人してからもそれは変わらず、むしろ世の中を知ったぶん、皮肉と辛辣さに磨きがかかったようで。

また、頭の回転が速く、言うことがいちいち的を射ているから、頭に来る。


こいつがそんなふうなのは、末っ子だからだ、とヤマトは結論づけていた。

結局のところ、こいつは、みんなから可愛がられて、核となる人間から、否定されたことがない。

だから、安心して、辛辣になれるのだ。

つまり、甘えだ。


何につけても人がよく、よほどのことがない限り、きつい言葉を吐いたりしない兄とは、逆だな、と感じた。


自分は、どっちに近いだろう、と考えるけれど、どっちにも近くない気がする。

しいて言うなら、弟だろう。

なんせ、弟が生まれると聞くまで、7年もの間、自分は末っ子だと思って生きてきたのだ。


末っ子であった経験はあるけれど、長男であった経験はない。

そういえば、クラス委員や部長などに推薦されるタイプでもなく、そういう役を務めたこともない。


ああ、と今ごろ気がついた。

自分は、今、初めて。


何かを代表して、背負う立場になったんだ。





ルルルッ、と、家具のない部屋に、固定電話の着信音が響き渡った。

3人とも、はっと身を固くする。

とらなくてもわかる。


母だ。



「誰だよ、ここ来てるって教えたの」

「ごめん、俺」



延大の声に、和之が、すまなそうに片手をあげる。
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