副社長は溺愛御曹司
私は本来、ヤマトさんのすべての執務に同行するわけじゃない。

ヤマトさんの意向でもあり、この会社の役員秘書全体が、そういう習わしになっているからでもある。

そう大きくない会社だし、創立してまだ20年だから、役員といったって、ほとんどが30代だ。

働き盛りのビジネスマンに、いちいちついていく必要もない、という単純な理由によるものだろう。



秘書は、私を含めて4名いて。

CEOづき、社長づき、副社長づきがひとりずつと、その他役員全員をマネジメントするのがひとりだ。

私以外は、最初から秘書として採用されたベテランばかり。


私が最初に担当したのは、ヤマトさんの前任の副社長で。

完璧なる秘書たちの中、私は「はずれ」を引かされたと思ってほしくなくて、必死で先輩たちの技能やマインドを吸収した。







乗りこむなり、ヤマトさんは後部座席でくうくうと眠りこんでしまった。


この会社の社有車は、役員専用に3台ある。

ふたつはいかにも役員然とした大型の高級セダンで、ひとつはこの、カジュアルな外国製のバンだ。

全然小さくないんだけど、価格のせいで、こちらが「小さいほう」と呼ばれている。


お忍びのお出かけや、こうして後ろでゆっくり寝たい時や、あとはたぶん、役員が好きに使うためにある車で。

リクライニングできる後部座席を少し倒して、座ったと思ったら、ヤマトさんはもう寝ていた。


腕を組んで、脚も組んで。

ピラーに寄りかかるように頭をもたれさせて、熟睡している。


動いて喋っていると、その明るく無邪気な言動から、幼さがただよう彼だけど。

こうして目を閉じていると、インタビューの時同様、やっぱりそれなりの立場の人なんだなあ、と思わせる。

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