副社長は溺愛御曹司
「どうかしたのか?」
「ううん…」
なんでもない…と弱々しく答えて、兄を残したまま、我ながら心もとない足取りで執務室へ戻った。
デスクに突っ伏して、頭を抱える。
なにこれ。
顔どころか、身体まで熱くなってくるのを感じた。
思春期か、と自分にあきれながら、ほてった耳を、手で覆う。
そういうこと?
俺、神谷のこと。
つまり、そういうこと?
そういうのって、高校生くらいまでの話なんだと、思っていた。
好きとか、そんなの、しばらく前から、考えたこともない。
ありか、なしか。
狙うか、やめるか。
落とせそうか、無理そうか。
いつの間にか、女の子の区分って、そういう感じになっていた。
だって、もういい歳なんだし。
好きな子、なんて響き、恥ずかしすぎる。
早くいつもの自分に戻らないと、コピーを終えた神谷が、書類を届けに来ちゃうよ、とあせるけれど。
むしろそのあせりが手伝って、身体中で沸きたつ血は、いっこうに引く気配を見せない。
どうしよう、と途方に暮れるあまり、顔も上げることができなかった。
もう、これは、それしか考えられない。
どう考えたって、そうとしか思えない。
たぶん、神谷は。
俺の、今、好きな子。