副社長は溺愛御曹司
「ご訃報です。告別式は明後日ですが、ヤマトさんはちょうど、ご出張ですね。明日のお通夜に参列されますか?」
広報部経由で届いた訃報を、神谷から受けとる。
懇意にしている、AV機器やIT関連の情報誌を出している出版社の、編集長の尊父の訃報だった。
編集長自身は、ヤマトとそう年齢も変わらないから、父親も、CEOと同じくらいだろう。
弔電のみというのは避けたく、できたら顔を見て、お悔やみを述べたかった。
「できるかな」
「夕方の予定を、調整いたします」
微笑んだ神谷が、失礼いたしますね、と部屋の奥に行き、クローゼットを開けた。
黒のスーツとネクタイを、クリーニングの袋から出すと、さっと全体を確認して、とりやすい位置にハンガーをかけてくれる。
「明日は、黒い靴と、白い無地のワイシャツでいらっしゃるのを、お忘れにならないでくださいね。お着替えもございますが」
「うん、ありがとう」
「お香典と袱紗は、私のほうでご用意いたします」
了解のしるしにうなずき、再度、ありがと、とお礼を言うと、神谷がにこっと笑った。
可愛い。
神谷が喜ぶことって、なんだろう。
神谷の好きなものって、なんだろう。
気づけば、そんなことを考えている。
たぶん、自分は、そこそこ神谷と近い位置にいて。
彼女に何か、してやりやすい立場にある。
何か、ないかな。
また、にこっとしてくれるような、何か。
あの、嘘のない笑顔を、見せてくれるような何か。
そんなのんきなことを考えていたら。
ある日、神谷が爆発した。