副社長は溺愛御曹司
けど、ヤマトのそんな楽観的な心づもりも、神谷にとっては、フェアじゃないと感じるんだろう。

もっと、前向きになればいいのになあ、とヤマトは神谷の猫っ毛を見おろした。



「少ししか女の子を知らない奴に選ばれるより、いっぱい知ってる奴に選ばれたほうが、嬉しくない?」

「なんですか、その理論」

「普段ゲームしない人に、これ面白いよって薦められるより、マニアに、この一本おススメって言われたほうが、説得力あるじゃん」



我ながらわかりやすいたとえだと思ったのだけれど、どうやら今度こそ神谷の逆鱗に触れたらしく。

並んで歩いていた彼女が、ものすごい形相でにらんできた。



「私は、ゲームソフトですか」

「そんなこと、言ってないだろ」

「言ってるんですよ。ヤマトさんにとって、女は結局、そのていどのものだっていう、潜在意識の表れです」

「そんな、言いがかりだよ」



あんまりだ。

けれど言い訳もさせてもらえず、神谷は足取りも荒々しく、秘書室のほうへと去っていってしまった。


ちぇっ、とふてくされた気分で、ヤマトも自分の執務室へと向かう。

なんだよ、あれ。

すぐ怒る。


そのていどだなんて、思ってないよ。

けど、じゃあ女の子を、いちいち、すごく重く考えてたら、それで満足なわけ?

絶対、それはそれで、機嫌を悪くするくせに。


デスクにつきながらスケジューラを確認して、今が、神谷がつくってくれた空き時間であることに気がついた。

思わず、笑みが漏れる。


神谷はいまだにこうして、毎日少しの空き時間を、ヤマトに与えてくれる。

この上なくリラックスさせ、彼の気持ちを切り替えてくれるものが何か、わかってる。


神谷とのいざこざで、ちょっと時間を使ってしまったから、空き時間は、もう残り少ない。

次の予定の5分前には、神谷が呼びに来るだろう。


きっと、ちょっと不本意そうに。

でも秘書の立場に徹するために、それを押し隠して。
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