副社長は溺愛御曹司
そもそもが高さの違うところに立っていたので、いまいち正確じゃないけど、たぶん背の高い人なんだな、と思った。

肩幅とか、しっかりしてて。

いかにも、運動部って感じ。


はい、と答えると、そう、とはにかんだようにちらっと笑って、足早に階段を上がっていってしまった。


これで、好きにならなかったら、嘘だ。



水泳部、2年、堤大和。

ヒロカズ、が正しい読みだけど、友達もクラスメイトも、先生までもが、彼をヤマトと呼ぶ。

うん、確かに、ヤマトって名前が、すごく似合ってる。

男らしくて、正義感にあふれてて。


たまに校舎ですれ違っても、私を覚えてはいないんだろう、目を合わせたりは、してくれない。

そんな、女の子に興味のなさそうな、控えめなあたりも好感が持てて、ますます好きになった。


私は2年になり、先輩は3年になり。

春が過ぎ、夏が過ぎ、秋も過ぎかけたところで、ここで言わなきゃ、一生後悔すると思った。



「ようやく決心したなら、早希にいいこと教えてあげる」



中学校からの友達である、由美子が仕入れて来てくれたのが、例のルールだった。

どうやら由美子と同じ陸上部に、かつてヤマト先輩に告白した子がいるらしいのだ。


そういう子たちは、探るといっぱい出てくるのに、探らない限り、出てこない。

先輩が女の子に人気なのは、有名な話なのに、彼が女の子といるところを見たことがない。

告白されたという噂をなんとなく聞いても、何年生の誰が、というところまでは、まったく伝わってこない。


誰もが、照れ屋の先輩の立場をおもんぱかって、暗黙の了解でそういう体制を敷いているように思えた。



――のに。



ふいに林がひらけて、日の傾きかけた空を見あげることのできる、小さな空間に出た。

そこは、元焼却炉だったらしく、黒くすすけた炉と、その周りを囲むように、人の高さくらいのブロック塀が立っている。

その中に入ると、風も来なくて誰からも見えず、地面は枯れた芝生で、片隅には古いベンチすらあって、居心地よさそうだった。
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