副社長は溺愛御曹司
こんなところ、あったんだ。



「いいでしょ」



正直な感想が口から出ると、私の手を握ったままの先輩が、振り向いてにこっと笑う。

この笑顔が好きなんだけど、こんな近くで見たの、初めて、と感動する間もなく、その手を引かれて。

気がついたら、キスをされていた。


えっ。


私、初めてなんだけど。

こんな、あっさり?


先輩は、つないでいなかったほうの手もとって、両手とも、優しく指を絡めて握ってくれる。

話しかけるみたいに、私の手を、指でなでてくれるのに、急な展開だけど、やっぱり優しいな、と私はじんわり温かくなって。

だけど緊張で、自分の手が冷たくなっているのがわかった。


柔らかく、何度か唇を合わせた先輩は、ふいに顔を離すと、私を見て、にこっと笑う。

私も笑い返したかったけれど、動揺と緊張で、なかなか思うようにはいかず。

なんとなく、どうしたらいいかわからなくて、視線を落とすと、つないでいた手が放されるのを感じた。


私の反応が鈍くて、あきれられたんだったらどうしよう、とあせって、慌てて先輩を見あげると。

一瞬目が合った先輩の顔が、また近づいて。

私は抱きしめられながら、さっきとは全然違うキスを受けていた。


重ねるというより、かみあわせるように唇を合わせて。

背の高い先輩にそうされると、私はかなり上を向くことになり、その体勢に、耳鳴りがするくらい、どきどきする。


抱きしめてくれる腕は、片方が頭のうしろに回って、肩まで伸ばした私の髪を、ゆっくりなでてくれた。

その丁寧な仕草に、なんだかほっとして、少しだけ自信が出て、先輩の背中にしがみついて、自分からも唇を押しつける。


すると、唇に濡れた感触が当たって、あ、と思っているうちに、舌と舌が触れた。

完全に、パニックだ。

どうしたらいいのか、全然わからない。
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