副社長は溺愛御曹司
ごめんな、という言葉を無視する。
遠慮もなしに消毒液をびちゃりと浴びせると、握った手がびくりと反応した。
「ごめんって」
「何がでしょう」
ガーゼをあてて、伸縮性のある包帯を巻いた。
もう血はとまっているし、簡単に押さえるだけで大丈夫だろう。
夜の予定の前に、目立たない絆創膏に貼りかえてあげよう。
今は最低限の包帯ですませ、巻き終わりをテープでとめる。
ヤマトさんが、じろりと私を見たのがわかった。
「頑固な奴だな」
私の台詞だよ!
終わりました、と乱暴に手を叩くと、いてえっと声があがる。
自業自得だ、という気分で、ガチャガチャと救急箱を片づけた。
「神谷の言いぶんが、正しいです」
長い沈黙ののち、つやのあるアルトでそう言いきったのは、久良子さんだった。
優雅に拍手までして、突っ立っている私たち3人のもとへやって来る。
続いて和華さんも、そのすらりとした長身をもってその輪に加わり、ヤマトさんに圧力をかけた。
「俺も、同感だね」
延大さんも即座に乗り、神谷ちゃんに拍手、と手を叩く。
気まずそうに目を泳がせ、すっかりふてくされた様子のヤマトさんは。
ごめん、とそれでも殊勝に言い、けれど私はそれを無視して、とにかく手当てをしますと彼をこの役員室につれこんだ。