副社長は溺愛御曹司
「クリーニングは、私が出します」
「うん」
「デスクも、毎朝拭かせていただきますよ」
「…うん」
お飲み物がほしくなったら、私に言ってくださいね、と言うと、かえってめんどくさい、と渋られたので、また机をバンと叩いた。
包帯の巻かれた利き手を握ったり開いたりしていたヤマトさんが、びっくりしたように固まる。
「何度かご用命いただけたら、私がヤマトさんのお好みやタイミングを覚えます。決してお手間はとらせません」
「はい」
「別に、贅沢をご提供するわけじゃないんです。そうやって執務に専念していただくのが、私の仕事なんですよ」
デスクチェアを横に向けて私と向きあっていたヤマトさんは、感心したように、そうなんだ、と言った。
「もしかして俺、今まで失礼なことしてた?」
「そんなことは、ないですけど」
お役目をいただけないのは、悲しいです。
本音を伝えると、そっか、とうなずいて。
「でも俺に、空き時間をつくってくれてたね」
役員の時間は、資産なんじゃないの。
そう、にこっと笑った。
「お気づきでしたか」
「何日か続いて、気がついた」
ちぇっと思う。
ばれないように、最小限の時間にしたつもりだったのに。
知ってしまえば、ヤマトさんは申し訳ながって、そこに予定を入れたがるだろうから。