副社長は溺愛御曹司
sched.04 気づき
「すずちゃん、ごめん、これ、ヤマトさんにお願いできないかなあ」
「はい、なんでしょう」
大判の、豪華な招待状を和華さんから受けとる。
中身を確認して、思わず、わあと声が出た。
海外でも勢力を伸ばすハードメーカーが開催する、クルーズ船での大きなオータムパーティだ。
「CEOと社長宛てなんだけど、杉さん、船がダメなんだよね」
「そうなんですか」
「夏に、屋形船でグロッキーになってたね」
中央のデスクの久良子さんが、各役員室に置く花器を3つ並べて、それぞれに手際よく花を活けながら笑う。
「参加の返事は、社長名でしてあるから。ちょっと急でごめんね。ぎりぎりまで杉さんが迷ってて」
「大丈夫です」
日付を見ると、確かに少し急で、今週末だ。
けどその日のアポは、今からでも調整できるものばかりだったはず。
今日中に、意向を確認しよう。
「ん、できた。どう、秋のイメージで」
「面白い。ダリアなのに、純和風」
「リンドウと、つるものがポイントよね」
華道をたしなむ久良子さんは、余裕があると、こうしてアーティスティックな生け花を楽しむ。
和華さんも少し経験があるらしく、仲のよいふたりは、よくこうしてお互いの作品を批評しあっている。
いいなあ、私なんて、切り花を花瓶にそこそこ綺麗に挿すくらいが、精一杯だ。
招待状をコピーして、日付やドレスコードなど、大事な情報にマーカーを入れて。
封筒と一緒にホッチキスでとめて、あとでヤマトさんに渡す書類の上に乗せた。